私は自分が住んでいる町内の人は大抵顔見知りで
会えば親しく話をしています。
私より年配のご婦人ですが、ここ一年ほど前から**症が
進んで来ています。
近所の人からは、病気を理解されるまで色々誤解を招きました。
本人の発言にも原因がありましたが、家族の対応にも問題が
有りました。
こればかりは、傍らでじっと見守るしか方法は無いようです。







久し振りにそのご婦人と出会いました。
ニコニコと満面の笑顔で私に話しかけて来ます。
一通りの挨拶をしていると、彼女は自然に私の両手を
しっかりと握りしめていました。
何度も何度も力を入れて握り返します。
私は
「元気で良かったわねっ!!、顔色も良いし会えて
 嬉しいわ〜」と言って話を続けました。

然し、話している内に彼女は私の事をすっかり
「忘れている」事に気が付きました。
ショックでした!!

「何処かで会ったかなぁ〜」と言い出しました。
「会ってていますよ〜、思い出して・・・」と又手を
握り返します。

「顔は見たこと有るけれど、あなたさんは?どなた?」と
真剣な顔をして尋ねてきます。
「ゆっくりで良いから、思い出してみて・・・」と私。
ニコニコ笑いながら、顔は見た事有るけれど「わからない」と
言います。
「良いから、ゆっくり思い出してね〜」と私も笑いながら
思い出して貰う様に努めました。

相変わらず手はしっかりと握ったままです。
日常の生活の中で手を繋いだり、握って貰う人は
居ないのです。
あぁ、ここにも目を掛けて差し上げないといけない人が
居るのだと、実感しました。
どうしても、思い出せない私の事を、無理やり思い出させる事は
無慈悲です。

「sumikoさんよ〜」と態とおどけて私の名前を伝えました。
「あぁ〜〜、判った、判った、何処かで会ったよね〜」と。

同じ町内で暮らしながら、そんな事を言い出しました。
苗字は最後まで思い出せませんでした。
こんな人が、一人で暮らすのはとても危険です。
それでも一人で暮らさなくてはならない理由が有るのです。
ご主人は重病で入院中ですがこれでは、ご主人の看護は
とても出来ません。
二人揃っていても、こんな状態ではお先真っ暗です。

若しかして、ご主人が入院中である事も記憶の彼方へ
飛んでしまっているかも?知れませんね。
当然他人の私の名前など、彼女の記憶の遥か彼方へ
押しやられていたのでしょう。
これは人の事ではありません、有る日突然、こんな風に
なる可能性が無いとは限りませんから・・・。



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